「次っ!4・3・6!!」
カキーンッとバットがボールを打つ軽快な音と野球部員の声が聞こえる放課後のグラウンド。空は朝から変わらずの快晴で、正に「運動日和!」って感じ。けど、今わたしが居るのはそんな太陽を避けるかのようにグラウンドの外の少し高めのがけのようなところにいる。(ちなみに木の下なので影の中。)
カシャ、カシャ
「うーん!やっぱりいいわねー」
「何が。」
声とともに聞こえるのはカメラのシャッター音。未来はまるで取り付かれたかのようにグラウンドで走り回る同級生(または後輩)をさっきから写真に収め続けている。というか、こんな暑い日のドコがいーんでしょうか、未来さん?
「暑いしわたしたち木陰にいるのに汗びっしょりじゃん。」
「違う!この天気じゃなくてー!」
「じゃあ、何?」
わたしがそういうと未来はカメラのレンズからこちらに目線をちろり、と向け、はぁーと盛大なため息をついてまた目線をカメラのレンズへともどす。…何ですか今の顔。あんたまったく分かってないわねーっみたいな顔したでしょ!今!!
「ほんとにわかんないの?」
「はーい先生。お手上げです」
両手をわざとらしく上に上げると頭をぽかっと殴られる。「痛っ!」「あんたほんとに馬鹿?」だからお手上げって言ったじゃん!!頭をさすりながら横を向くと、未来がすとんっと腰を下ろした。あ、野球部休憩に入ったんだ…
「私がなーんでこんな快晴であっついのにも関わらず外で写真なんか撮ってるかわかる?」
「…野球が好きだから?」
「馬鹿っ!私の目的はね、“佐藤寿也”よ“佐藤寿也”っ!!」
「さとーとしや、?」
「あんたもしかして…佐藤寿也知らないのっ?!」
「えへ、えへへへ」
未来のはぁーっと本日二度目の盛大なため息。佐藤寿也さとうとしや…誰だったかな…聞いたことある名前なんだけどなー……あ!思い出した!!
「や、野球部キャプテン!」
「そ、運動神経バツグン、成績優秀、んでもって容姿端麗ときた。」
「…もてる、の?」
「ばーか。それでもてなかったらこの世のどんな男ももてないわよ。」
未来…それはいろんな人に失礼だと思うんだけど…。でもそんな人だったんだ、“佐藤寿也”。名前と野球部キャプテンってことは思い出したんだけど、いまいち顔が思い出せない…んー、というかわたしそういうの多分噂で聞いただけだから、顔とか実際みたことないんだけど…っていうことは未来にいったら本日二度目のパンチがきそうなので言わないでおこう…
「ふーんそうなんだ」
「ふーんてあんたね…ま、恋とは縁が無いあんたには関係の無い話かもしれないけど」
「なっ!わたしだって恋くらい…!」
「恋くらい…何よ?漢字知ってますって?」
うししとわざとらしく笑いながら未来がわたしのほうを見る。…言い返せない!何て言えばいいか思い浮かばない…く、悔しい…!!
「あーもー知らないっ!未来なんてっ!!」
あははは!とお腹を抱えて笑っている未来を尻目に、ふんっ!と勢いよく立ち上がる。と同時に、向こうからすごい勢いの風が吹き付け来て、ちょうど、向かい風になってわたしの体を押した。
「きゃっ…!」
「ちょ、危ない…っ!!」
そうだ、ここはがけで下は地面で…危ない!頭打ったらしんじゃうじゃん!どうしよ、まだわたしやりたいことたくさんあったのに。今日の帰り未来と一緒に好きなケーキ食べて、今日から始まるドラマも録画して、それからそれから、恋、も、したかったな……ん?っていうか長くないか?痛みもこないし…え、やだ、もしかしてわたしほんとに「大丈夫?」……え?
おそるおそる閉じてしまっていた目を開ける、と
「??!!!!」
「あ、よかった…怪我、ない?」
「え、あ、はい、」
目の前にはまるでこのままいけば某有名事務所入りけっていだねというくらいのかっこいい顔があった。心臓がどきんどきんうるさい。…って、いうかわたし何で助かって…?
「ボール拾いしてたらさ、上から何か降ってくると思ったら人だったから驚いたよ。」
思わずキャッチしちゃった、と微笑む美男子君。…え、きゃっ、ち?
「!!!!」
どうやらわたしはお姫様抱っこ、というやつでこの美男子君にキャッチしてもらい、命拾いしたみたい…何この少女マンガみたいな展開!!とわたしが考えてる間にすとん、とわたしの足が地面に着地する。
「本当に怪我とか、ない?」
「え、あはい!全然っ大丈夫ですっ!!っていうかわたし重かったですよね?!す、すいません…っ!!」
「いや?全然。軽すぎるくらい。」
またにこり、と微笑む美男子君。息を呑む、っていうのはこういうことなのかな…うまく言葉がでてこない。
「あ、ありがとうございました…!」
「はは、気にしないで、僕が勝手にやったことだし。」
「いや、でも助けて頂かなかったらわたしは今頃あの世でケーキ食べれなかったこと悔やんでただろうし…」
「…ふっ、あはは面白い人なんだね、さんって」
「え、」
「それに同級生なんだから敬語使わなくていいよ?」
さっきの微笑とは違って少し顔を崩して笑った顔にまた心臓が早く動き出す。なんだか顔が暑い…(きょうは、ほんとうに暑い…)なんでこの美男子君はわたしの名前知ってるんだ…?わたしの知り合いにこんな美男子君はいなかったハズ…わたしが脳みそをフル回転してるとき「もうそろそろいかないといけないから、」と去っていこうとする美男子くん。服を見ると、(ユニフォーム…野球部?!)野球部にも佐藤寿也以外にイケメンいるじゃん未来!!新しい子…なわけないよね、今同級生って言ってたし…そうだ、名前!駆け足で走りさっていく背中に声をかける「名前―っ!!」すると立ち止まってこちらをむいた美男子君は少し驚いた顔をしていて(そうだよね同級生なのに名前知らないってわたしどんだけ…!!)すると美男子君の向こう側からだれかが「としやーっ!!」と呼ぶと、美男子君が振り返って「あぁ!今行く!」と言った。え、ちょっと、待っていま“としや”って…
「僕は佐藤寿也!野球部で、キャプテンやってるんだ!よろしくね!!」
…嘘。え、あれが、あの、佐藤、寿也。え、わたし佐藤寿也にキャッチ(しかもお姫様抱っこ)して命助けてもらった挙句名前呼んでもらったのにこっちはわからなくて名前聞いたの…??? ……わたし、明日あたりころされるかもしれない…(佐藤寿也くんのファンの皆様方に…)というか、
「ーっ!大丈夫?!っていうかあれやっぱ佐藤寿也じゃん…!、あんたラッキーだねぇ…」
「…未、来。」
「ん?どうしたの…ってまさかどっか打ったの?!」
「心臓がさ、すっっっ…ごいうるさいんだけど…」
「あんた、それ…」
恋、だよ。という未来の声が聞こえた後に、「いくぞー!」という佐藤くんの声と、またカキーンッという軽快な音がグラウンドから聞こえ始めた。
ラブ・フォール
(崖から落ちて、恋にも落ちる)
(071104)