02
lack authenticity






「わたし、の、夢…ー?」


そうゆっくり仁が言った言葉を確かめるように繰り返すと、仁がゆっくり頷いた。

「そっ、夢。」
「ゆ、め…」

夢…って言われてもなぁ…。実際わたしは死ぬ覚悟で睡眠薬を飲んで、何だか訳わかんないことにここに現在(いま)いるわけだし…ゆめって言われてもなぁ、む、むずかしい…!そんなことをぐるぐる考えてるうちにはっとひとつのことが浮かぶ。「ー…、仁…?」「ん?みっかった?」空中に泳がしていた仁の視線がくるりと顔ごとこちらを向く。


「…ひとつだけ、ある…。」
「なに?」


ごくり、唾を飲む音が大きく聞こえる。


「行きたい世界、が…あるの。」


定まらなかった視線を仁の視線にしっかり合わせる。そんなわたしの真剣な視線に驚いたのか、仁の目が見開いた。…こんな夢なんておかしいかもしれない、けど…。わたしの夢、は…ー!



「アイシールド21の世界に行って、デビルバッツのみんなとクリスマスボウルに行きたい…ー!!」



しん、と一瞬静まる空気にはっと意識が戻る。わ、わたし何言っちゃってんだ…!しかも力入りすぎだし真顔だしは、はずかし…っ!!「な、なーんてさすがに無理、だよねー!漫画の世界だもん、ねっ!ごめん、他の考え「それでいいん、だね。」


「ー…え、」
「って聞き返すまでもないか。そんな真剣な表情で力入りまくりで言うくらいなんだから。」


すらすらと言いながら仁がにっこりと笑う。え…っていうか今仁、「それでいいんだね」って…そんな言い方じゃあ、ほんとに叶えられるみた、い。

「叶えられるみたい、じゃなくて、叶えるんだよ、。」
「…っ!じ、」


仁、また約束破ったなコノヤロって、がつんと言ってやろうと思ったのに、急に視界がにゅっと伸びてきた仁の手に覆われ、て、


「Good Luck、…ー」


辺りが真っ白に、包まれ、て、いくー……




*****




「ー…っ!った、!?」


がつんと殴られるような激しい頭痛に襲われ目を覚ます…ってあれ?この痛み、さっきも味わったような…。周りに目を向ける。いつものベッド、布団、ジャージ、天井、カーテン……間違いなくいつもの、わたしの部屋だ…ということは、「さっきのは…夢?」まさか、あんなリアルな夢。初めて見た…。


「ははっ、んでもってわたしはただ寝て、目を覚ましたってんですか。」


なかなかそっちにはいかせてくれないんだね、おとーさん、おかーさん…。そんなことを考えながらいつもどおりベッドから降りようと足をフローリングにつけるとひんやりとした冷たさが伝わってくる。これはさすがに現実だよ、ね…。朝ご飯どうしようかな…食欲無いし、食べなくても別にいっか…


ガチャ


「あ!やっと起きてきやがったな、こんの寝ぼす…


バタンッ………。



あれー?わたしやっぱ疲れてんのかな…あ、薬の影響?幻覚?あ、そっかそっかそうだよね!そりゃ、あんなけ飲んだらそれ位出ちゃうよね!心を落ち着かせるため、ひとつ大きく深呼吸をする。よし、と意を決して軽くドアノブを握っていつもの動作で扉を開ける、と、


「なーに幻覚見ましたみたいな行動取ってんのかなー?理数系のさぁーん?」
「ひぃっ!」


目の前に人がいきなり現れた驚きで開いた扉を閉めようとしたけど、し、閉まらない…?!


「扉を固めてみました」
「人ん家の扉に勝手に何しちゃってんですかあーた!!」
「人を30分以上待たして寝ぼすけで起きてきたと思ったら俺の顔見た途端扉閉めるが悪い。」


そういってまたにっこり笑う笑顔に騙されそうになったけど…いつのまにか呼び捨てっ?!いや、別にいいけど、というか寧ろその方がよかったけどね!(だってなんか仲良しって感じするし!)でも…さ、ほんとに、目の前にいる彼、は…「仁。神の候補。の異世界へ行きたいという願いを叶えると約束した。」


「えっ…、」
「まだ、信じられない?」


心を見透かされたようにそう言われ、目線ががっちりと交わる。…うん、この強い瞳は、人に有無を言わせない瞳は、間違いなく…「…仁。」そう名前を呼ぶと「よくできました」と優しい笑顔が返ってくる。その笑顔になぜだかほっとして胸をなでおろす。


「…んで何で仁がわたしの部屋に?もしかして異世界とやらにぶっ飛ぶから準備しやがれコノヤロー!ってこと?」
「……は?」


わたしが気になっていた至極普通の質問をすると、何とも仁にしては珍しい情けない声が聞こえた。わたしそんな何か変なこといったかな…?


「…あー天然記念物だったな…」
「いやいやいやわたし天然じゃないよどっちかっていうとしっかり者だよってか物違いますから!!」
「じゃあ天然記念人?」
「じぃーんーっ…!!」
「外、」
「へっ?」
「外、見てみ?」


もう何を今外なんて関係ないじゃん…と思いつつ仁には逆らえないので窓がある方に顔を向ける。………え、ちょっと待って。わたしの目が間違ってないかぎりあれは…


「とうきょう、たわー…?」
「そ、」


もしかして、そんな思いを頭が駆け巡り、気づけばベランダの扉まで近寄りガラリと扉を開ける。開けた瞬間、わたしには心地よい少し冷たい風が頬を掠める。下の商店街の看板など周りを見回してみる。


「…、う、そ…」
「何て書いてあるか読める?」
「……どろと」
「サン…?」
「……でい、もん…」


「よくできました」と本日2度目の仁からのお褒めの言葉を頂く。それでもわたしの頭はまだ半分くらい機能を停止していて。…確かに、東京タワーが見えたし、“泥門”って書いてある看板をいくつも見つけたし、何しろ仁がいる。でも、やっぱり普段起こりえないことが起こって「はいそうですか」何てこと軽々しく言え、ない…。あぁやばい。頭破裂しそう…。


「…そう簡単に真実味は帯びない、か…」
「仁…」
「心配無用。これから嫌でも真実味を帯びてくるカラ。」


そう言って視線を合わすと仁はにやり、という笑い方をして一瞬冷や汗が出た。


「…じ、仁さん…?」
「高校見学もしなきゃなー…っつーことで」
「へ?」


ぱちんっと仁が指を鳴らしたかと思うと、すぐその後にぼふんっという音がして軽く煙に包まれる。うわっ!ちょ、仁、何し…?!!


「まずはひとつめ、」


絶句、まさに言葉が出ない。今さっきまで確かにパジャマ代わりのジャージを着ていたはず、なのに今わたしが着ている服は…


「泥門の…制、服…!」


緑のとブレザーに赤のリボン、黒に近い紺のスカート。見たことのある間違いなく泥門の制服だ…!やばい、う、嬉しい…!!でもさ、


「す、スカート短くないっすか…?!」
「活発なさんにはそれくらいがお似合いで」
「そ、そうですか…」


風紀とかには引っかからないのかな…?泥門は“自由な校風”っていったって風紀はあるはずだし、実際に風紀委員だって……って今はそんなこと考えてる場合じゃないし、余裕もない!!とりあえずは今の自分の状況を鮮明にすることが、先決…!


「で、次は…」
「次は?」
「高校か…」


わたし、場所なんかはもちろん知りませんよ?っていうかここからなら大分遠いんじゃあ…


「瞬間移動でばびゅんっとずばんっと!なーんて…」
「あ、ナイスアィデア」
「…へっ?」
「俺力使いまくれないんでそこんとこしくよろーっ」
「はっ?!ちょ、仁?!!」


ぱちんっ、乾いた音が耳に聞こえて弾かれた仁の人差し指がわたしに向いているのが消えゆく視界の中で見えた。あぁ、時すでに遅しって、やつ。………ひゅんっという音とともに体全体がさっきの少し冷たい風に包まれている感覚がする。無意識にぎゅっと瞑っていた目を開ける、と……


「……へ、?」


浮いていた。空に。………っておいおいおい空中に飛ばしてどうすんですか、仁さん。わたしにどうしろと?変に落ち着いてるわたしも逆に怖いな…。下の建物が小さく見えて、町の遠くの方までよく見渡せるよ…。何て思ったのもつかの間、。ガクンッと体が下がる感覚がする「へっ、え、ちょ」と思ったら重力に逆らっていた体が重力に従い落下、し始め、て…


「い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


この感覚嫌いだ…!!あのジェットコースターが高いところから低いところへ落ちる瞬間の体が浮く感覚…!わたしこのまま死んじゃうの?!いや、でももう死んでるのかな…


『だから死んでないってば』


?!!じ、仁?!どこにいるのよばか!


『大丈夫。落ち着いて、?』


この状況で落ち着いてられるかこんのばかちんっ!!っていうかもう地面が…!!?ひ、ひとがいる…!あ、危ないこのままじゃあ…!!


―…ワタシノセイデ、アノヒトタチガ…―


「…ーっ!ぃゃ、ぁ、あぶないぃぃいーー!どいてぇぇぇぇぇええええっ!!!!」「「?!!!!」」


頭を下に向けて思いっきり叫ぶ、どんどん地面が近づく、もう、ダメー…!!身を堅くしてぎゅっと目を瞑る。するといきなりさっきまで感じてたスピードが弱まり、とんっと足が地面に付く感触が体中を駆け巡る。そっと目を開けると、そこに、は


「…ここ、が、でい、もん…?」


校舎らしき建物や体育館らしき建物が見えた。(確信はできないけど…)うせ、ほんとに、ここが…!!…って、ちょっと待てよ。さっき仁としてた会話からして飛ばされたここが泥門、ということはわかる。校舎も見たことある気がするし…。っていうことは、だ。さっきわたしが下に見た大量のひと、は…。はっとひとがいた方向を向こうとした瞬間、冷たい何かがわたしの額にごちんっとぶつかった。


「あいたっ!あ、すみませ……」


謝ろうとした言葉が、出て、こない。ぶつかったものは、偶然ぶつかったのではなく必然的に狙われて突きつけられているのだとわかり、それを目で辿ると黒い筒が見え、やがてそれが拳銃だとわかるのにそう時間はかからなかった。たしかに、たしかにそれにも驚いた、けど。






「おい、」






その拳銃の先を辿って、






「てめぇ、」






その主の顔を見てみれば、






「何もんだぁ?」






太陽に輝く金色の髪、尖った耳に銀色のピアス、高い鼻、それから何もかもを見透かしているような鋭い眼。





「蛭、魔、妖、一…」








(夢?現実?幻?)












(080323)