03
have an air of authenticity






一瞬にして頭がフリーズする。真っ白。あの仁と出会った世界みたいに色が全て溶けてなくなってしまった。何か、言わないと、早く、はやく、はやく…っ…!!!


「ぶふぇっ?!」


その瞬間体が後ろへ引っ張られる感覚がして、踏ん張る間もなく流されるままわたしは引っ張られてぽすんっと背中に何かが当たった。壁…?にしては柔らかすぎる…ということは…ひと?


「なーにひとの女に勝手に物騒なことしてくれてるんですか?あーた」


上から聞いたことのあるような無いような声が聞こえて、その方向へと目線を向ける。


「…っあ、え、な、」
「遅くなって悪かった…。」


栗色の髪、大きなくりくりした強い目、優しい声、


「じ、仁…?」
「よくできました」
「…ぇっ、ぇええええ?!!!」


わたしは驚きでぱっと仁から離れ、向き合う形で立つ。


「えっ?!ほんとに仁?!!」
「ほんとにほんと、理数系の…」


、さん?わざとらしくそう言ってにっこり微笑む仁は間違いなく仁だ。にしても仁…!


「せ、背ぇたかっ…!」


そう、見た目が随分と違う。背はわたしを軽く声、少し丸みを帯びていた顔は男のひとの角張ったようなしっかりした顔になっているし、髪も少し伸びて、着ている服はスーツでびしっと決めて、まるで


「ほ、ホストみたい…!」
「え、それ褒められてんの?俺。」
「あ、あったりまえじゃんか!言うことなしにかっこよくなってるよ…!!」


ありがと、と軽く微笑む仁にどきっと心臓がなる。ま、まさにこれぞキラースマイルってやつか…!!…ん?なーんか忘れてるような…って、


「あぁ!仁、まったくさっきのを忘れたとは「おいこらそこの糞変人共。俺のこと忘れたとは言わせねぇぞ…?」


がちゃこ、不気味な音が背後から聞こえる。


「…じ、仁…わたし、後ろ振り向かないほうがいいか「ふーん…もしかして、あんたがヒルマヨウイチさん?」
「!!じ、仁っ!!」


ざっざっと砂の上を歩いていく仁を止めるべく振り返ると…「ひぃっ!」殺気が出てるよ殺気が…!!さっと仁の後ろに隠れて袖を必死に引っ張り、小声で仁に訴える。


「じんっ!やめて!危ないよ、仁は何も知らないから…!」
「知ってるよ。」


なおもわたしを引きずりながら歩く仁。何だかえらく頼もしいなぁ、おい…ってそうじゃなくて!いまは仁を止めなきゃ…っ!!


「私立泥門高校アメフト部、通称、悪魔のコウモリこと“泥門デビルバッツ”の主将、悪魔の指令塔QBの蛭魔妖一。プレイスタイルは相手の裏をかきまくるトリックプレイを得意とし、また計り知れない頭脳を持ち合わせている。脅迫手帳で人を脅し、奴隷として扱うことから“悪魔”と泥門高校の生徒に恐れられている。…と、今言えるのはこんなもん?」


ふぅ、とため息を吐き出してから、にやりと意地悪スマイルを出す仁を、わたしはぽかーんと口を開けて見ることしか出来なかった。いつのまにそんなこと調べたんだよ…!って、そんな常識、仁には通用しないってことか…。ふ、と視線をあちらの方へ向けていると、目を少し見開いて驚く蛭魔の顔があった。うわ、すご…!こりゃあ見ものじゃん…って、ちょ、まって。周りを見てみればデビルバッツメンバーがいつのまにか集まってきていて、みーんなぽかーんと驚き口を開けていた。


「…っ!」


みんながいた驚きで仁の真後ろ隠れて両手でしっかりスーツを握りしめ、顔を仁の背中に押し付ける。


「わっ、と。…どうした?」
「…す、…た…」
「…え?」
「…少し、帯びてきた…」
「何が?」
「…少し、現実味を、帯びて、きた…」


みんなが、泥門デビルバッツのみんなが、ほんとに目の前に、いる。顔を押し付けている仁の背中は少し暖かくて、わたしがしっかり現実にいるとい
うことが確かめられた。「…そ、か。だからいったろ?心配ない、って」わたしにだけ聞こえるように小声で仁が言う。それに答えるように、わたしはゆっくりと頷いた。何となく、ほんとに何となくだけど、今仁が笑った気が…ー?!!


「じ、仁、なにし…っ?!!」
「ってな訳で、泥門デビルバッツのみなさん、っていうか蛭魔妖一さん。こいつには手ぇ出さないで下さいね?」
「?!!」
「!!ちょっと、じ…!」
「あいあいじゃあ校長室行きますよ、。」


くるりと蛭魔達に背を向けて歩き出す仁。っていうかわたしがさっきから焦ってるのは…


「仁っ!降ーろーしーてっ!!自分で歩けるから!!」
「嘘つけ。」
「!!なっ、」
「…環境ばしばし変わりまくりで不思議体験しまくりで、足ガクガクで立ってるのが精一杯のくせに。」
「ーっ!、それ、は、」
「…悪いのは俺だから。色々と落ち着くまで俺の指示に従って下サイ。…悪い…」
「じ、ん…」


仁はそう言いながらわたしを軽々とお姫様抱っこして歩いている。…何か迷惑かけっぱなしみたいで悪いなぁ…。でも、だからこそ余計な迷惑かけないようにしないと、うん。


「りょーかいしました、隊長っ!」


にっこりわたしが笑いかけると仁は少し驚いた顔をしてから、笑い返してくれた。



*****



「…ヒル魔ー知り合いー?」
「…いや、知らねぇ」
「2人ともですか?」
「…あぁ。」
「なのに相手はヒル魔先輩のことめちゃ知ってったッスね…不思議MAX…!」
「…ヒル魔、くん?」
「……ケケケ、おもしれぇ」









**********











「テスト。」
「……はい?」
「まー俺の愛しの従姉妹を預けられる器か試すって感じだな。」
「…すんません全力で意味がわからないのですが」


あの後、結局本当に校長室に行って挨拶して、(いつのまにか入学手続き終わってた…!)そして明日のことや明日からの話をいろいろ聞いて今は帰り道。明日からの為に道を覚えなければ…!と力んでいたけれど、どうやらそうややこしい道じゃないみたいで、大丈夫そうということがわかった。と言うわけで
、仁に気になっていたことを聞く質問タイムをもうけることにしました。「何で蛭魔にあんなこと言ったの?」というわたしのひとつ目の質問に対して、先ほどの会話にいたります。


「…器、ねぇ…」
「あれ?そんだけ?」
「え?」


わたしが呟いただけで終わるとなんだか意外みたいに仁が言う。何、それじゃあまるでばしばしもっと言い返してほしいみたいじゃん。ま、まさか仁、え…!


「…、何か変なこと考えてるでだろ」
「?!!ま、またこいつは…!」
「言っとくケド心は読んでませんよ?顔がニヤけてますよ」
「うそっ?!」
「うーそ、」


慌てて両手を顔につけたわたしをまるで悪戯っ子のような笑みで見てくる。や、やりやがったなこんにゃろ…!まぁ化かし合いで今の仁に勝てるとは思いませんがね…という訳で会話を元に戻そう。


「いや…だって、さ。仁が意味もなくそーゆーことやるひとじゃないってわかってるから、さ」
「!」
「だから…何も言わない」


さっき言うこと聞くって約束したしね。それに今忙しいハズの仁がわざわざ面倒くさいことするなんてありえない!


「という訳でこの質問しゅーりょーっ!」
「ぇ、ほんとにいいのかよ?」
「いーのいーの!そして質問その2ぃー」
「いくつあんだよ」


はいそこ嫌そうな顔しない!だってわたしにはわけわかめなことばっかりなんですから、これくらい許していただきたい。と言ってもあとこの質問で終わるつもりだけど、何だかんだでこの質問が一番ややこしそう…だな…。いや、やっぱそんなこともないっか。(いやいやどっちだよわたし!)



「えとねー。何故にわたしが仁くんの従姉妹になってるのでショーカ?」


あえての従姉妹!みたいなね。いや…たしかに親子は無理あるよ?だけど頑張れば兄妹でも良かったんじゃないかなぁー…ってまぁ顔は似てないんだけど…。だけどそれ位ならどうにでも言えるし、わたしにしては“兄妹”っていう方がいろいろとやりやすいことも多いんじゃないかなぁーって思うわけなのですが…


「…あー、それな。」
「うん…何で兄妹じゃなくて従姉妹?みたいな」
「いや、俺もうここいれねぇからさ」
「…へ?」


仁のあまりの突然の衝撃発言に情けない声が漏れ出す。仁の顔が少し曇った気がした。


「俺戻ってやらねぇといけないことあるし」
「…あ、」


そっ、か。仁は将来大変な役職(?)に就く可能性もあって、多忙なんだ。そうだ、考えたらすぐわかるじゃん、当たり前だよわたしのばか…!


「そっか…ごめん、そうだよね…!じゃあ今日はなんで…?」
「今日はとりあえず説明っていうか紹介?みたいな。なーんにもわからずじゃあ困るだろうなと思って」
「わっ、!それはすいません…!」
「いやいや、お気になさらず姫?」


いつものようににっこり笑う仁の笑みが、今日の仕事を終えて沈みゆく夕日に照らされてすごく大人びてかっこよくて、わたし心臓が、どくん、と高鳴った。……将来大物になりますよあなた。うん。今のうちに写真撮っておこっかなぁ…!気付けばもう家に着いていて、がちゃり、と仁が鍵を開ける音がする。確かに朝起きたときは、部屋とかまったく一緒で気付かなかったけど…やっぱり外見とかは違うんだなぁ。お隣さんとかに挨拶しなくていいのかなぁ?


「たっだいまー」
「おかえり」


いつものくせで入りながら誰もいない部屋に向かって「ただいま」と言ってしまった。「いやいや仁もただいまでしょ!」っというと「俺のほうが先に部屋入ってたしー」という。まったくこの屁理屈やろーめ!「ばかばかー」とぽかぽか叩くも、全然仁には効いてないようでふっと笑いながらわたしのあたまにぽんと手を置く。どうしたんだろ…?見上げると、また背後から夕日に照らされているせいで少し仁の表情が読み取りずらい。でも何だか…悲し、そう?


「じ、ん…?」


いつのまにか仁を叩いていた手も気付けば仁の服をぎゅっと掴んでいる。すると仁がわたしの頭を優しく撫でた。まるで、泣いた子を、あやすように、


「…じゃあ、行くわ」
「あ、そっか、うん…いろいろありがとう」


何だか仁がいなくなっちゃうのは心細いけど…しょうがない。仁だって暇なわけじゃないんだし。「、」そんなこと、考えてたら急に名前を呼ばれて、顔を呼ばれた方向へと向ける。そしたら、がっちりと視線が絡み合う、わたしと、仁の視線が。真剣な、瞳。もしかしたらいままでで、一番、かもしれない。(まだ1日も一緒にいたのかもわからないけど、)


「これから先のことは、全部が決めれば良い。というか、が全部決めなきゃならない。辛いことも、悲しいことも、きっとたくさんたくさんあるだろ
うけど、……これだけは、忘れるな。お前の助けはいつも、すぐ傍に、いる、から…―――」


ひゅっ、と音と共に仁の姿が呆気なく消える。タイムオーバー。まさにそんな感じ。これから先のことは、ぜんぶ、わたしが決めていく。なんだか不安だらけで怖い。真実味を帯びてきた現実(いま)とも、まだ100%融合出来たわけじゃない…。そのまま自室の扉を開く。そういえば仁いつのまにこの扉直したんだろ…?やっぱり候補だとかなんとか言っても、すごい力なんだなぁー…。わたしたちの世界での超能力とかそんなんとはまったく違う、それ。ベッドに飛び込むと、ぼふんっと音を立てて、いつものやわらかいわたしの好きな布団に体が埋まる。あー…何だか今日は眠たいなぁ…。よし!今日はもう明日に備えてはやく寝るとしますか!そうと決まればちゃっちゃとご飯作って、お風呂わかして…―




そうしてわたしの異世界生活のいちにちは無事に終了したのでした。








(  運命 ノ 歯車 ワ、動キ 出シタ … )












(080323)