05
create one's own future






「じゃあ案内しますから、わたしの後をついて来てね」
「は、はいっ!」


職員室に謝りながら頭を下げて入ったら、怒られることなく自分のクラスに案内してもらえることになった。怒られなくてよかったー…!というかむしろ何か暖かい目で見られた気がするんだけど…気のせいかな?あ!そういえばあの猫ちゃん…いつのまに居なくなっちゃったんだろ…?確か助けたときはしっかり腕の中にいて、それからルイさんに謝って、状況説明して…「はい、ここですよ、さん」


「はっ、はいぃっ!」
「そんな緊張しないでいいからね?」


にっこりと先生が微笑んでくださったおかげで少し落ち着けた気がする…!「わたしが呼んだら入ってきてね?」「はい!」ガラガラと扉を開け先生が先に入る。…わーどうしよう、何か緊張するなぁ…っていうかみんなと上手くやれるかなぁ?不安だらけだけど、やるしか、ない。「入ってー」気付けば先生に合図のように呼び出され、クラスの中がざわざわとざわついてる。そりゃこんな1時間目の途中で転校生きたら驚き倍増だよね…。すー、とひとつ深呼吸してからガラガラと扉を開け、先生が立っている横まで歩いていく。さっきまでのざわつきが嘘みたいにしん、と静まり返った。


「です!とある事情で転校してきました。どうぞよろしくお願いしますっ!」


しっかり頭を下げてから顔を上げる。ちょ、目線が痛い…!でも…負けてらんない…!に、にこっ!……あ、あれ?やっぱ笑顔変だっ「さんどこから来たの?!」


「え!あ、泥門の近くです!」
「好きな教科はー?!」
「数学です!」
「その髪の毛地毛ー?!」
「そうですーっ!」


ななななんだこの少女漫画的展開は?!これ少年漫画…ってそれも関係ないけど!とりあえずはつかみ…おっけー?


「じゃあじゃあ…「はーいストップ!それ位にして続きはまたあとで!…じゃあさんの席はと…あ、小早川!」
「は、はいぃっ!」
「…え、」
「じゃああいつの席の隣ね?」


小早川…まさかとは思いつつ、でも小早川なんて名字、泥門にもひとりだけのはず…こつこつ歩く靴音がえらく響いてるような気がして心臓が張り裂けそうなくらいばくんばくん音を立てる。


「よろしくね!小早川セナ、くん?」
「え…」


それまで俯いていた顔がばっとこちらを向く。やっぱり、セナ、だ。ということは緊張して気付かなかったけどもしかし、て……


「え、あ、あぁっ!きっ昨日の!!」
「ハ?」
「はぁ!?」
「はぁぁあああ?」
「でた!ハァハァ三兄弟!」
「だから俺らは兄弟じゃ…「マンガ大好き戸叶庄三くん、負けっぱなしは趣味じゃない十文字一輝くん、ヒキョーがモットー黒木浩二くん、三人合わせて泥門デビルバッツのラインマン」
「「「「?!!!」」」」
「そして…、」


すっとセナの耳元に口を寄せて、囁くように、誰にも聞こえないように話す。…これくらいしたっていいよね、バチは当たらないよね?何て考えながら今の状況を楽しんでる自分に内心驚きながら、少し笑みが零れた。



「フィールドを切り裂く光速のランニングバックー…アイシールド21…くん?」

「ーっえ、!!!」


セナの驚いた顔や3兄弟の驚いた顔を見てすこし微笑んで、「よろしくお願いします」と言って頭を下げてから席に着いた。…………ってわたし何やってんの!こんなことしちゃヒル魔…さん(さん付けした方がいいのかな…?!)に言われちゃうじゃんばかっ!いやでもだってさ、ちょっとこういうことやってみたいじゃん…!興味本位で、…ってなんの言い訳だよ!!あとでヒル魔…さんには言わないでって言っておこう…うん。




***




―キーンコーンカーンコーン―



やっと終わった…!!さっき一時間(もなかったけど!)中ずっと視線がいたかった…!そりゃこんな変態おんないたら気になるわな…。さっきのことを伝えようと席を立とうとしたとき、


「小早川く…「ねぇねぇさん!」
「うぇっ?!あ、はい!!」
「えー何で敬語?!ま、そんなとこがかわい…「あ!てんめー抜け駆けすんなぼけっ!さん、あの…」


人だかりが来ました!何故?!いやいやちょ、みんなが行っちゃうよ…!


「ちょ、ちょっとごめんなさい!すぐ帰ってきます!!」


頭をぺこりと下げて人だかりをすり抜け4人の後を追う様に廊下へと走る。廊下へ出ると冷たい風が頬を掠めていく。何メートルか先に並んで歩く後ろ姿を見つけた、


「あ、あのっ…!!」


大声で叫ぶと、全員がこちらを振り返り、怪しむような顔でこちらを見られた。(ちょっとこわい…!)ごくり、と唾を飲んだ喉の音がやけに大きく聞こえた気がする。


「さっきのこと、ヒ…あ、あの人には…!」


“あの人”で伝わるかな…?昨日のことは忘れてないだろうし、(あんな訳わからないこと)きっと伝わってる…よね?転校初日でヒル魔さんの名前を呼ぶのはなんか気がひけるし、…。みんながわけがわからないって顔をしてないところを見るとわかってもらえたみたい。「内緒で!」って叫ぶのも変か、(周りに怪しまれそう…)…ってことで人差し指だけを立て、口元にあてる。しーっ、のポーズ。にっこり笑うと、全員が驚いた様な顔をせてから、3兄弟はぷいっと、セナは慌てたように振り返っていってしまった。…あれは了解、と取っていいのかな?何かちょっと寂しい気もしたけど…「さぁーん!」「あ!はーいっ!」呼ばれた名前に現実に引き戻され、人が減っていない(むしろ…増えた?)自分の机ときびすを返し、足を早めた。




***




「じゃぁーねー!ばいばいっ!」
「うん!さよーならっ!」
「だーかーら、敬語なしってば!」
「ちゃんったらー…!」
「えっ?!さよならも敬語?!」
「普通ばいばいでしょ!」


じゃーねぇーと帰っていくともだち。不安だったけど、なんとかうまくやれそう。というか何か男女ともにみんな優しかったな…!みんな「名前で呼んでいい?」と言ってくれたりして、もちろんわたしは快く了承した。(というかむしろ呼び捨てでお願いしまーす!って言ったら笑われたけど…)あと敬語もだめ!って言われた。昔からわたしの親は行儀とか言葉遣いに厳しいひとで、よく怒られたりしてたからなんだか緊張したり、なれなかったりすると、どうしても敬語が出てしまう…。でもみんなせっかく仲良くしてくるてるのに何だか心を許してないみたいで悪いよね!うん、明日からしっかり頑張ろう…!!ふんっ、と明日からの誓いに気合いを入れていたとき、後ろから「あ、」という声が聞こえてとっさに振り返る。掃除も終わってここに残ってるのはわたしだけだと思ったんだけど……?


「あ!セ…じゃなくて、小早川くん!」
「ああああ、え、、さんっ…?!」


そんなびっくりしなくてもいいのに…。


「そんなびっくりしないでよ…何かしょっく…」
「え!あ、いや、その…ごめん」


まるで効果音でもあるのかというように、セナがシュンとなる。ぎゃっ、可愛いとかいう前になんか泣きそう…?!


「あ、いや、その別にそこまで怒ってたりとかそういうわけじゃないから!顔…あげて?」


その言葉に答えてくれるようにセナが顔をあげたのをみて顔が安心して綻ぶ。ギィ、といすを引いて自分の席に座ってまだ扉付近で立っているセナにおいでおいですると、セナが「?」と言うように首を傾げる。なんだかいちいち仕草が可愛いなぁ、セナは…。


「ちょっとお話如何ですか?」


というとセナは少し悩んだり慌てたりしてからゆっくりと近付いてきて、自分の席へと座った。


「どうしたの?教室に戻ってくるなんて、」
「あ!…うんちょっと忘れものしちゃって…」


そう言いながらまた忘れそうになってたのか、思い出したように机に両手を入れがさごそしてから「あった」と言いながらプリントを取り出した。あ、そういえば今日数学の宿題出たんだっけ…。


「あの…、さん?」
「!」
「え?」
「あの…何かって名字で呼ばれるの恥ずかしいからさ、って呼んで?」
「え、でも、あの「ーっ!」
「…、」
「え?」
「、?」


うわーセナ可愛い!そんな名前呼ぶくらいで真っ赤になっちゃって…!っていうかもしかしておんなのこの名前呼び捨てするの、わたしが初めてになっちゃったのかな…?!い、いいのかな…?


「じゃ、じゃあ!」
「ぇ、ん?」
「ぼ、僕のことも、あの、セナって名前、で…」
「…え、いい、の?」
「あ、うんっ!もちろん!」
「…セナ?」


あまりの突然の申し出に嬉しいやら驚きやらで、いきなりセナの名前を呼んでみる。心なしかセナも笑ってくれた気がして、ふたりの意味のない 声が教室に響いた。


「あー!なんか恥ずかしい、ね?」
「うん…でも、なんだか嬉しい、なぁ…」
「…セナ…」


嘘みたい。いま、わたしの目の前にはあのセナがいて、こんな風に笑顔でしゃべりあってて、…わ、どうしよう、


「…って、え、ちょ?!どうしたの?!どっか痛い?」
「ごめ…大、丈夫」


現実味が帯びてきた世界が、じわじわとわたしを支配していく。どうしてかわからず涙が零れた。なんでか自分でもわからなくて、気付けば水がわたしの目から流れてぽたぽたスカートや頬を濡らしてく。慌てたセナの姿が目に入って泣き止め!って命令してる、のに。止まらない。


「…、…」「…セ、」


セナ、って呼ぼうとした口が止まる。声がした方を向けば、真剣な眼差しがこちらを射抜いていた。なんて、鋭くて、澄んだ、瞳―


「、君は…どこからきたの?」
「あ、朝言ったじゃん、泥門の…「違う。」
「!」
「どこから泥門に、引っ越してきた、の?」


しまった、そういう意味だったのか。だから朝、みんなも笑って…ばか、わたしのばか…!今更気付いてどうするんだ。ほんとの場所は言えない、だってこの世界には存在しない。だからと言って他の地域を言ったって探されたら一発でアウト。…うそはつきたくない、だけど、ほんとも言えない。


「…それと、」
「…」
「どうして僕がアイシールド21って知ってるの?」
「…っ、」
「答え、て?―…」


そう、だ、きっとスパイなんじゃないかって心配してるんだ…。ちがう、ちがうのに、わたしは、あなたを助けたいのに…!、喉が言うことをきかない。いずれはいろいろとこの(わたしがある未来までを知っている)状況が問題になってくる、はず…助けは欲しい。…セナなら信じても、いいだろうか?わたしが話たら、信じて、くれるだろうか…―?


「セ、ナ」
「なに?」


声までもが優しい。相手を気遣うような。涙はいつのまにか止まっていた。


「…ごめん…泣いてるのにいきなりあんなこと言って…」


わたしが話だす前にセナが申し訳なさそうに謝る声。セナは、悪くないよ。…うん、自分で、決めなきゃ。自分で切り開いていくしかないんだ、道は。


「…あのね?セナ」
「…なに…?」
「わたしは、助けたい、の」
「…?」
「できる、限り。全て知っているし、だからこそ変えられないかもしれないけど。ただ見てるだけかもしれないけど。だけど、だけどせめてちゃんと進むように、みんなが、…みんながちゃんと勝ち進んで白しゅ…っ?!!」
「?!っ?!」


な、に、この痛み…?!急に走った、左腕からの痛みが体を裂くんじゃないかって勢いで体を駆け巡る。いたい、いたい、いた、いよ…助けて、…――


「…っ?!…っ!」



だんだんセナの声が遠く小さくなって、ぷつり、と聞こえなくなってしまったのと同時に、わたしも意識を手放してしまった。






(正体不明の変態女) 












(080406)