07
Each thought which has begun to move
入部届取ってくるからそこ一歩も動くんじゃねぇ、との命を受け、じっといすに座ったまま約10分くらいが経過しました。セナも結局行っちゃったしなぁー…(なんども“僕のせいでごめん!”って謝られたけど…)言っちゃうと暇です。何か勝手に動き回ってもの壊したりしちゃったらいやだし…っていう前に『半径3メートル以上動いたら…わかってんだろうなぁ?』と、ガチャコというなんとも物騒な金属音と共に言われて動けない状態です。はい、一歩も。いすに深く座ると背が小さいから足が浮く。その足をぶらぶらしていると、ガラリと扉が開いた音がして、そちらに目線を向けた、ら
「!!ムサ、…こんにち、は」
白いタオルを頭に巻いた、がたいの良い男のひと。少し髭が生えてて強面だけど、ほんとは違う。目も、心も、優しい。ムサシ。びっくりついでに名前を呼びそうになったのを必死で止めた。じゃないと変態おんなの株がまた上昇してしまう…!
「あんたは…昨日の…」
「あ、はい、どうも」
確か考えてみれば昨日もいたんだムサシ、さん!じゃあもうムサシさんの中ではわたし=怪しい変態おんなになってるかもしれない…しょっくだな、それは……
「おまえ…」
「へ?」
「今、俺のことムサシって…「おいこら入部届書きやがれ…!ってなんだ、糞ジジィ来てたのか」
「あぁ、邪魔したか?」
「別に邪魔じゃねぇーよ。入り口にそうやって突っ立ってられっと邪魔だがな」
わりぃな、と言いながらムサシさんとヒル魔さんが入ってくる。わたしは少しイスをズラして、2人がゆったり座れるようスペースを作ったら、それに目敏く気付いたムサシさんが、わたしの目を見て「ありがとよ、」と言った。わたしが「いいえ」と言う意味をこめてにっこり笑うと、視界の端から何か伸びてくるのがわかって、そのすぐあと、頭に何かが乗せられる感覚がした。…ぇ、もしかして、ムサシさんの手がわたしの頭を撫でて…る?
「…?たけ、くら、さん…?」
名前を呼ぶとムサシさんがふっと笑って。「ムサシでいい」といった。わたしは少し考えてから、「はい、厳さん」と言った。ムサシさんの目が大きく開かれる。その向こう側にいたヒル魔さんの動きも、一瞬止まった。
「…何で俺の名前…」
「えーと、読心術?」
「…別に俺は自分の名前のことなんて考えてなかったが?」
「…ムサシさんじゃ、駄目なんです」
「…?どういうことだ?」
「ほら、あのーいろいろと、ね?だから、厳さん、って」
呼んじゃだめですか?と首を傾げながらムサシさんを見る。驚いた優しい目と視線がぶつかって、にこりと笑いかけると頭にがっと重い衝撃があって頭が下げられた。
「うわわわっ!」
「…俺はかまわねぇ、あんたの好きにしな」
「!ありがとうございます!」
顔を上げて、嬉しさから無意識に頬が緩んでしまう。するとがしがしと乱暴ながらムサ…じゃなくて、厳さんがわたしの頭を撫でてくれた。なんか、優しい感じがして落ち着く、なぁ…
「そういやあ、あんたの名前は?」
「あ!えと、はじめまして、と申します!」
「どこから来たんだ?」
「泥門の近くです!」
「(そういう意味じゃなかったんだがな…)あぁ、そうか…。、」
「!って呼んでくださ…「テメェらいつまでイチャついてやがんだ!!!」
ダラララララという凄まじい音が耳に響く。「きぃゃあッ!」これ心臓に悪すぎる…っ!っていうか今ヒル魔さん…!!
「いっ、イチャついてなんかいません!!」
「あぁ?あれのどこがイチャついてねぇーっつんだよ?」
「普通に喋ってただけじゃないですか?!わたしはいいとして、厳さんに失礼ですっ!!」
「…テメェはいいのかよ…」
「…え?いまヒル魔先輩なんて「うっせぇ、何もねぇーよ!あいつらの様子見てくっから帰ってくるまでにこれ書いとけ」
ぽいぽいっと紙とペンが投げられ、吸い込まれるようにわたしの腕の中に入る。さすがQB…!ぴらっと紙をめくると“入部届”という文字が大きく印刷されていた。バタンッと乱暴に扉を閉める音にまた心臓がばくんっと音をたてる。ヒル魔さんそのまんまだなぁー…それにしても、さっきボソッと何言ってたんだろ…?よく聞こえなかったけど…
「…じゃあ、俺も失礼するか。」
「え?!あ、そういえばヒル魔さんに用があったんですよ、ね…?すいません!わたし呼んできま…「あー、いい、いい。別にたいした用じゃなかったしよ。」
「え、でも…」
「またな、」
ぽんっとわたしの頭に手を置いて、少し微笑んでからガラガラと優しく扉を開けて出ていってしまった。…ほんとに良かったのかなぁ?なんか厳さんに悪いことしちゃったなー…。もうわたしのドジばかまぬけーっ!…自分で(しかもひとりで)言ってると悲しいな……あっ!ヒル魔さんが帰ってくる前に入部届書かないと!
*****
「やつらの練習見に行くんじゃなかったのか?」
横から声がして、壁にもたれたまま姿勢のまま無意識にチッと舌打ちが漏れる。顔なんざ見なくったって誰だかわかる。そんなにも時を一緒に過ごしてきたはずなのに、今は離れている。それを今すぐにでも元に戻したいのだが、戻せない自分に、状況にイラだち、また舌打ちが漏れた。
「…あぁ?テメェはあの変態女と御戯れ中じゃなかったのかよ?」
「…のことか?」
思いついたように、糞ジジイが名前を呟く。…くそ、なんてったって今日はこんなイラつくんだ。ジリジリと照りつける太陽のせいか。「あいつは…」糞ジジイが口を開く。
「あいつは、なんなんだ?」
「アメフト部のマネだ」
「…ただの労働力、か?」
みーんみーんみーん、やけに蝉の鳴き声が耳にうるせぇ。相変わらず容赦なく照りつけてくる太陽を睨みつけながらきびすを返すように、足をグラウンドへと向ける。ジャリ、と砂のこすれる音が会話の無い静寂な空気にやけに大きく聞こえた。
「んなこと気にする暇があったら、さっさとロッカールーム作りやがれ」
糞ジジイの質問に答えなかったのは、いつものただの気まぐれ、だ。
***
わたしの目の前にズラリと並ぶ背丈も雰囲気も様々な男性の方々。こんなに男のひとが揃うと、圧巻というか何というか、威圧感はんぱないな…!でも不思議と怖くわ、ない。
「えー、今日から“快く“アメフト部のマネ業をすることになった、」
「です!」
“快く”をやたらと強調したヒル魔さんの言葉に、みんなが冷や汗を流したのが見えた。さすが…みなさんよくわかってらっしゃる。でも、別にそんな嫌々って訳じゃないん、だけど…な…
「ちょっとヒル魔くん!」
そんなことを少し考えていたとき、むさ苦しいこの場には似ても似つかないソプラノの綺麗な怒声が響く。自然とその声の方に目線がいき、少し薄めの茶色い毛が見えた。もしかして、いやもしかしなくても、
「あぁ?何だ糞マネ」
「だから私はそんな名前じゃありません!今はそんなことじゃなくて!」
生まも姉にニヤけそうな頬に気合いをいれて、意識を本題に戻す。まもりさんどうしたんだろう…?凄い怒りようだけど…と思ってたらばちりと視線があい、びくっと肩が震えた。にこっと笑ってみるけど、苦笑いになってそう…するとびしっとまもりさんの指がわたしを指したので「ひぃっ」と少し声が漏れた。も、もしかして「なんでこんなトロそうなおんな入れるの?!」みたいなこと言われたりして…?!
「またヒル魔くんが無理矢理入れたんでしょう?!!」
「……へ?」
そうまもりさんがヒル魔さんに叫ぶ。え、あ、無理矢理っていうか、そんなわたし的には無理矢理じゃないというか…元はといえば迷惑をかけてしまったわたしのせいであって…どう伝えたらいいんだろ…?!2人はすっかりケンカモードに入ってしまわれた様で、まさか今日きたばかりのわたしが割り込める(止めれる)はずもなく。オロオロとするしかない。
「え、いや、あの…」
「!そんなに怯えて…もう大丈夫だからね?怖かったでしょう?」
よしよし、とでも言うような優しいまもりさんの顔が目の前にくる。う、わっ!すっっ…ごいびじん…!!いや知ってたというか今日クラスの子が「姉崎先輩ってやっぱ綺麗だよね…ー」みたいなことを話してたのを聞いて「やっぱそうなのかー…」とか思ってたけど、実物となると違う。やばい、己が恥ずかしくて穴があったら入りたいんですが…!いつのまにか俯いてしまったわたしの顔を覗きこむようにして「大丈夫?」とまもりさんの顔が急接近してきて、焦って「わぁっ」と後ずさってしまった。何やってんだばか!
「いや、あの…だ、大丈夫、です!」
「無理しないでいいのよ?」
「あの、わたしから、言ったんです、」
「…え?」
「セナ、くんと、ヒル魔さ…先輩に、御迷惑をお掛けしてしまった代わりに、わたしがアメフト部の奴隷をすると」
言ったんです、何だかだんだん声が小さくなってしまって、もしかしたら最後の方は聞き取れなかったかもしれない。それでも、やっぱり“無理矢理”アメフト部のお手伝いをするってことになるのだけは、嫌、だった。だって、わたしがこっちにきたのは、元はといえばみんなと同じ、クリスマスボウルっていう夢を見たくてきたんだし、そのために少しでもみんなを助けたいって思ったのも事実、だし…。ぐっと何時の間にか手で拳を握っていて、視線はまた地面とにらめっこ。どうすれば、いいんだろう…?わたしはやっぱり、なんの役にも立てないの、かなぁ…?そんなことを考え始めたときざっと砂を歩く音がして、視線の端に運動靴が目に入ってばっと視線を地面から離して上げる、と、
「セ、ナ…?」
セナがわたしの横に立ってじっとまもりさんの方や、みんなを見てる。しんと静まり返った空気が少し痛い。
「…を…」
「…?」
「を、泥門デビルバッツのメンバーに、いれてあげて、ほしい」
「!セ、ナ…」
「…お願いします…っ!」
ぺこりと頭を下げるセナを、わたしはただただ驚いて見ていることしか出来なかった。だって、
(わたしは未確認生物なのに、)
(080503)