17
sad the past
さんさんと照らす太陽が眩しい夏。ある一軒の大きな屋敷に、幸せに日々をくらす3人の家族がいました。それが“”家。わたしと、お父さんとお母さんの3人家族。わたしは当時4才。
「おかぁーさまぁーっ!」
「まぁっ!っ!!」
だだだーっと走っていくとぎゅうーっと抱きしめてくれたお母さん。いや…母様。わたしはこの、母様にぎゅうーっとされるのが大好きだった。
「まったく…甘えん坊だなぁ、うちの姫様は」
「あっ!おとぉーさまっ!!」
「まぁ、あなた」
「ただいま、響花、」
「早いお帰りですね」
「あぁ、今日は仕事が早く終わったんだ」
「おとぉーさま、もうおしごといかない?」
「あぁ、今日は行かないよ」
にこっと笑って頭をぐしゃりと撫でる父様の手も大好きだった。父様は結構世間では有名だった大手企業の会社の若社長で、ある日色んな会社の重役さんたちやいろんな人が来るパーティーでそこに呼ばれた有名会社のひとつの社長令嬢だった母様に一目惚れした父様が猛アタックして結婚したのち、わたし、が生まれたという話らしい。(お父さんが生まれる前からずっと家に仕えてるじいやに聞いた!)かなりのスピード婚だったみたいなんだけど(お母さん18才、お父さん19才)誰も反対することなく、すんなり婚姻も式も挙げたらしい。じいやは「ご主人様(わたしのおじいちゃん!)も皆様のんびりとした方ですからね」と言っていた。つまりはみんな天然というかなんというか…少し抜けてるみたいな?それでもふたりは“離婚”なんて言葉とはまったくの無縁だと言うようにラブラブで日々を過ごしていた。
一度そんなふたりに「だれがいちばんすき?」という質問をしたことがあった。ふたりとも、別々に質問したのにふたりの答えは同じで。
「おとーさま、」
「なんだい?」
「おとーさまは、せかいでだれがいちばんすきぃ?」
「そうだな…母様…かな、」
「そっか…」
「でもそのすぐ次は誰だと思う?」
「わかんない‥」
「…ふっ、、お前だよ、我が姫」
「ほんと…?」
「あぁ、ほんとさ」
「おとーさまだいすきぃーっ!」
「ははっ、俺も大好きだ、」
そう言って抱き上げ、抱きしめて、頭ぐしゃりと撫でてくれた父様。母様も一緒だった。顔を赤く染めながら「父様‥ね、」なんて言う初々しい姿をよく覚えてる。(だって結婚して5年もたつのにまだ顔を赤くするって…!)それでも父様と同じように「そのすぐ次はよ?」と笑ってわたしを抱きしめてくれた。優しい父様、母様。笑顔の絶えないこの生活が、ずっとずっと続くと信じて疑わなかった。あの日、あのわたしの人生をひっくり返してしまう運命の日までは…―
***
「今日は久しぶりの休みだから‥どっか行くか?」
「ほんとっ?!」
「あぁ」
「やったあーーーっ!!」
「よかったわね、」
「うんっ!」
ある雨の日。最近ずっと仕事が忙しくて休日も返上して仕事ばかりだった父様が、久しぶりの休暇で遊びに出掛ける提案を持ちかけてくれた。わたしはたまらなく嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねて喜んだ。そんな姿に父様と母様、それからじいやも笑っていてくれてた。
「の好きなようにしていいぞ」
「じゃあね、えーと、えーと、んー‥遊園地行きたい!」
「あ、でも雨が…」
「ゆーえんちぃー!」
「まったく…仕方ないなぁ、確か雨でも利用できる屋内遊園地もあったはずだから、そこへ行くか」
「そうですね」
「やったぁあー!、かんらんしゃのるー!」
「ははっ、それは晴れないと難しいなぁ?」
よく行く遊園地で、帰る直前の最後の締めくくりに家族3人で観覧車にのるのが決まりみたいなものになっていた。観覧車のてっぺんから下に広がる海を見るのが好きで、夕日で赤く染まった空を見るのが好きで、わたしは遊園地に行くのが大好きだった。だから…その日、幼かったわたしは久しぶりに家族そろって遊べるということしか頭になくて、豪雨にも構わずそんなわがままを強引に押し通した。
「あめ、つよいねー…」
「、一緒に座ろうか?」
「(むっ)だいじょぶっ!、ひとりですわれるもんっ!」
「それはそれは失礼致しました、姫」
大きな車で向かい合って座れる様になっているシートに、父様母様が並んで座り、わたしがひとりで座っていた。それでも父様たちはわたしが酔わないように、進行方向がちゃんと前になるようにして座らしてくれていた。そう座っていることから、わたしには前がすごい雨で見えずらい状況なのと、時より雷が光るのが見えた。ぴかっとすごい光が辺りを照らす。それに続いてガッシャーンとなにかが割れるように大きい音が鳴り響いた
「きゃっ…!か、かみなり…!!」
「…近いな…少し危ないかもしれない…じいや、大丈夫か?」
「はい、坊ちゃま、大丈夫にございます」
ほんとにすごい雨で、数メートル前さえもがまともに見えなかった。そこで、引き返せばよかった。ダメなら、どこかで雨が収まるのを待てばよかった。悲劇は突然やってくるもの、で、
「ーっ!!!危ないっ!!!」
「へっ…ー」
「「っ!!!」」
じいやがそう叫んだあと、顔をあげると…、対向車のライトと雷で真っ白に光る視界、キキィーという耳が避けそうなクラクション音、光とほぼ同時に鳴り響くガッシャーンという雷が落ちた音、それから‥何かが潰れるようなとてつもなく激しい音。全てが一瞬にしてわたしを支配した。最後に聞こえたのは父様と母様がわたしを呼ぶこえと、何かがわたしに覆い被さるのが見えた。
***
「…った‥いた…あれ……え、‥な、に」
気がつくとそこはどこかわからない状況だった。視界が黒い煙りでよどんでいて、なにもかもがぐちゃぐちゃだった。少し見えるフロントガラスの向こう側はまっくらで、ほんの少し赤く光る何かが見えた。何かに包まれている…?そう思って体を少し動かす、と
「…おと‥さま‥?おか…、さま?」
わたしを抱きしめるようにして倒れる母様と、その上からわたしと母様を抱きしめるようにして倒れている父様が見えた。服はぼろぼろで、至る所が赤黒く染まっている。なにが起こったのかわからなかった…否、わかりたく、なかった。どくどくと脈打ち出す心臓と、いまだザーザー降る雨とガッシャーンとなる雷がうるさくて仕方なかった。
「…、…っ」
「おと、さま…?おとうさまっ!!」
「だい、じょうぶ‥か…?」
「、は、だいじょうぶ、‥でも、おとっさま、とおかさま、が…っ!」
「…」
「!おかあさまっ!!」
「…、ごめんなさい‥ね…」
「おかあ、さま‥?やだっ、おかあさまっ!やだ、まって、」
「…響、花…」
「…あな、た‥」
「俺たちの‥姫は、無事…だ…っ」
「はい…っ‥よかっ、た‥です…」
「やだ…いやだよ!ゆうえんちいこうよ!!かんらんしゃ、みんなで‥のりたいよぉ‥っ!!」
わたしの目からはぼろぼろと涙が流れはじめた。体中痛くて、息が苦しくて、父様と母様を見てられなくて。いろんな感情が混ざり混ざって涙となって溢れ出した。
「…、」
「…うっ‥、ひっ、くっ‥ひっ」
「‥、父様の話‥を‥聞いて…?」
母様がわたしを抱きしめている腕にきゅっ、とほんの少し力をいれた。
「…泣か、ないでくれ…ずっと…太陽の、ように…笑っ、て、いて‥ほしい‥」
「おとう、さま…」
「それ、が‥わたしたちの、願いよ‥?…、」
「おかあ、さま…っ!」
「の笑顔は‥世界一、だ…っ」
「ひっく…うっ‥おと…さまっ‥おかあっ、さまっ…!!」
「ほら‥っ、笑って?…、」
きゅっと口を結んで、無理やり嗚咽を押さえこんで、顔がぐちゃぐちゃのままにっこりと笑った。たぶん、泣きながらだったからうまく笑えていなかったんじゃないかと思う。それでも、父様と母様はわたしの顔を見て安心したようなホッとした顔をして、目を…閉じた。
「…っ!やだっ!おとうさまっ!おかあさまっ!!いかないで…っ!っを、ひとりに、しないでぇ…っ!!」
「…ごめん、な…愛してるよ‥」
「、愛してる、わ…ずっと‥永遠、に…」
「ー…っ、っおとうさま?おかあ、さま…?いや、めをあけて…っいや‥いやぁあぁああああああああああっっ!!!!」
ガッシャーン、雷と雨が、わたしの声をかき消した。
***
交通事故だった。
雨で視界が悪くなったのと、水浸し状態の地面でのスリップ。車同士の正面衝突で、生存者は2つの車合わせて、わたしひとりだけ、だった。運転手だったじいやは即死。相手は大型トラックで、運転手の人も助手席の人もお亡くなりになられたとあとから聞いた。わたしはというと、車も大破して死者が何人も出たというなか、ほんとに奇跡に近いように無傷だった。頭を何針か塗ったが、そんなのあの事故から見れば無傷なようなものだった。
それからの日々は大変だった。会社の社長だった父様がいなくなり、会社は大慌てで様々な仕事をこなさなければならなくなった。それを助けるため、引退したおじいちゃんも働いたらしい。落ち着くまもなく、勿論のことながら跡継ぎ問題が浮上した。救いだったのは父様の会社は跡継ぎを醜く争うような人達はおらず、会社が誰かに乗っ取られるような心配がなかったこと。そして…大きくなったわたしは家を出て行く決意をした。父様も、母様も、じいやさえもいないあの思い出ばかりがつまった家にいるのはつらくてしかたなかった。執事さんもメイドさんもいいひとばかりだったけど、なんだかわたしには居場所がないような気がして…つらかった。そして、父様の実の子はわたししかいないことから跡継ぎはわたしという話だった、けれど…わたしはその権利も自分から破棄した。
「…本気か?」
「…はい、お祖父様‥ごめんなさい」
「なぜじゃ…お前なら…の性格や頭ならきっと「いいんです」
「…え…」
「もう会社ではお父様の跡を立派に継げるような人がいるはず。そして、それを支える人材も…」
「そんな…」
「お祖父様や、お父様の大事な会社を私なんかの小娘のせいで潰したくなんかないんです」
「…」
「だから‥わたしは社長の権利を破棄しますっ!」
「…すまん…っ、…ありがとう、…っ」
そして、社長令嬢でもなく社長の権利を破棄したようなわたしが家にいるのはいろいろとややこしい、というのを理由に、社長の権利を破棄する代わりに新たな生活で慣れるまでの生活費などを工面するというのを条件に、わたしは家を去り、遠い違う土地で一人暮らしを始めた。それから学校も変わらずちゃんと通い(家の近くに転校はしたけど)、バイトも始め、生活費を自分でちゃんとどうにかできるようになってきた頃わたしは家との連絡を絶った。父様には弟さんがいて、その弟さんに子供がいることからわたしが連絡を絶ってもお祖父様には孫がちゃんといるし、ほかになにも心配することはなかった。最後に『ほんとうにいままでありがとうございました』と電話をして、それから一切の連絡はしていない。(そのために引っ越し先や学校も伝えてなかった。)
そこから…、その日から、わたしひとりでの人生が始まったのだった。
(そして月日はたち、また運命が動き出す)
(080829)