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A jealous man






カタカタカタカタ……ん‥なんだろこの音…カタカタ…?‥あ、わかった、ヒル魔さんがパソコン叩く音だ…!なーんだ、そっかそっか……ガタッ!!


「ってなんでやねんっ?!!」
「は?」


ってなんでわたしつっこみながら起きてんのー!?(しかも関西弁…!)って起きる?なんでわたし寝てんの?!!確か部活に早く来すぎて、んで掃除しようと思って雑巾絞ってロッカー一通り拭いて…で?あれ?そっからの記憶がないぞー…ってなんでわたしに男子もののブレザーがかかって…?


「…幻覚?」
「試しにこの銃で打ってさしあげましょうカ?」
「…おはよう、ございまーす…」


本物だよ後ろ横向いてみたら本物のヒル魔さんだよ…!!なんか、久しぶりだ、ヒル魔さん見るの。金髪も、ピアスも、長い足も綺麗な手もなにもかも、変わって、ない。わたしの、どきどきする心臓、も。…って待てよ‥ということはこのブレザーってまさか…


「あの…このブレザーって‥その」
「俺のだ」
「ですよね!!え、あ、すいませんほんとクリーニングして返します…!!」
「いい」
「へ?」
「畳んで俺のロッカーの上の棚の奥にいれとけ」
「え、でも…」
「聞こえてねぇーのか?」
「あ、はいっ!わかりましたっ!!」


びゅんっと隣のロッカールームまで走って、ベンチに座りブレザーをきれいに畳む。えっ…と、ロッカーの上の棚の奥‥っと…よしっ!任務完了!ってあり?なんでこんなとこに雑巾が落ちて…もしかして、いやもしかしなくてもわたしが使ってた雑巾?…そうだ、わたしロッカー拭き終わった後床を拭こうとして‥そしたら急にとてつもなく眠くなっちゃって…だからわたしは床で寝てたはず…なのにさっき目覚めたときはイスの上で…もしかして、「ヒル魔さんが…運んでくれ‥た…?」そのうえ、わざわざ季節外れのブレザーまで引っ張りだしてくれ、て、わたしにかけてくれた‥んだ…‥どうしよう、嬉しい‥、顔がにやけてしまう…!!ばか!しっかりしろ!!…そうだ、せめてものお礼しなきゃ…!




***




「あの…よかったら、飲んでやって下さい」


ことん、と目の前に置かれたのは俺専用のティーカップにうまそうに注がれたブラックコーヒーだった。…なかなかいい香り出してんじゃねぇーか。ずずず…一口飲んでみた。…正直うめぇ。苦すぎず薄すぎず、俺の好きな濃さで、香りもいつもよりいい。コクもいつものよりあって、深い味わいが出ている。


「…なに使った」
「へ?」
「…これ」
「あ、」


これを持ってきた、作ったであろう張本人に問いかけると質問の意味がわかったのかにこりと笑って、「置いてあった市販のインスタントですけど…」


「…はぁ?」
「へっ、あ、すいません」
「…別に謝れなんて言ってねぇが」
「えっあ、すいませ…ごめんなさい?」


思わずため息が出た。こんなやつが、ほんとにいつも使ってるインスタントでこんな味が出せんのか…?俺や糞マネが作るコーヒーがマズいわけじゃねぇ、これが、が作ったコーヒーがうめぇんだ。


「お味はいかがですか…?」
「…悪かねぇ」
「ほ、ほんとですか?!」
「嘘に聞こえたか?」
「やったあっ!!」


両手をあげてぴょんぴょん飛び跳ねて喜んで…お前は幼稚園児か。素直に「うまい」の一言が言えねぇ俺も俺だがな…。


「よかったです、…さっき、ここまで運んでくれたのってヒル魔さんですよね…?」
「…知らねーな、んな昔のこと」
「…ありがとう、ございます」


…‥んな顔すんなよ。抱きしめたくなるだろうが、糞バカが。顔を赤く染めて、優しく微笑んで俺だけに礼を言うこいつを、俺だけのものにしてぇ…なんてこと、思っちまった…。重症だな、俺…―。どんだけ俺をハマらすきだ?。かたんっと満足そうにさっきまですわっていた席に座り自分用に煎れた紅茶を飲み始めた。…そんなにうまそうに飲まれると欲しくなっちまうなぁ?ひょいっと取り上げ口に運ぶ。


「!!あっ、ヒル魔さんそれ…っ!」
「あ?……っ?!んだこれっ‥?!げほっ、ごほっ」
「わっ、!だ、大丈夫ですか?!だから言ったのに…」
「んだこの糞あめぇー飲みモンは!もはや砂糖飲んでるみてぇーじゃねぇか!!」


ある程度の甘さは覚悟してたが…あの甘さはありえねぇ、糞甘すぎる。糞デブといい勝負だな…


「ひっ、人の飲んどいてそれはないんじゃないですかー?!」
「んな甘ェもんばっか食べてっと甘くなんぞ」
「なっ、なりませんー!」
「試してみっか?」
「へっ」


がたっ、席を立ってぽかんと座ったままのに近付く。(と言ってもすぐ隣に座ってんだが)…隙だらけなんだよ、バカ。


「ヒル魔さ、…っひゃあっ、?!」
「…‥甘ェ」
「な、ななななななにし、ってか甘くないですからわたし人間ですし細胞分裂で出来てるわけでというかなんで阿含と一緒のことし…っ!!」
「…阿含と一緒こと…?」
「や、なにもないですっていうか顔近いです顔顔かおが…っ!!」


はっとしたように口を手で押さえる。これでもかというくらい顔が赤ぇ。茹で上がったたこか、テメェは。…にしてもあの糞ドレッドも、の首筋に噛みついただと…?


「…どういうことだ?」
「えっ、いや、そのなんていうか」
「」
「きゃっ…?!な、み、耳元で言わないでくだ‥」
「…」
「…〜っ!!」
「…俺のことも名前で呼べよ」
「なっ…?!む、りです、よ…そんな…」
「…糞ドレッドは呼べるのにか?」
「!それは…!」
「それもこれも一緒だ。何一つ違わねぇ」


自分でも無茶言ってんのはわかってる。だがそれ以上に、こいつの俺に対するよそよそしい態度がイラついて仕方ねぇ。確かに礼儀正しいのは悪かねぇ、だからって糞ドレッドだけ名前呼びされてっと、なんだか俺が負けちまってるみてぇで性に合わねぇんだよ。ごくり、が唾を飲み込む音が聞こえた。


「…ち‥さ、…」
「…聞こえねぇ」
「…妖‥一…さん…」
「…なんでさん付けなんだよ」
「だ、って‥!‥だめ、です…」
「あ?」
「…さんは絶対に付けます…じゃないと、いけないから‥」
「?テメェ、何言ってやが…ー」

バタンッ!ドンッ

「朝練MAーーーX!!!…ってな、え、?!!」
「えっ?!」
「あ、や、お、おはよーございまーす!みなさんっ」
「お前いつ退院した…ってあり?ヒル魔さんどうかしたんすか?」
「……糞チビマネ‥テメェ…!」


バタンッと扉が開いて糞猿が入って来やがったと思ったら、いきなりが俺をぶっ飛ばしやがった…(力が力だけにそんな飛ぶほどでねぇが)くっそ…こいつ…


「なっ、そっ、それ以上近付いたら…っ!」
「近付いたら…どうなんだ?俺を殴るか?」
「あ、あれ?これどういう状況??」
「せっ‥セナ!助け…「ほかの男に現(うつつ)抜かしてんじゃねぇーぞ」
「きゃ…っ!」


一瞬、糞チビに気を取られてる間に間を詰め壁に追い込む。壁に手をつき両脇を俺の腕で挟み、後ろは壁。さぁ、もう逃げられねぇぞ…?


「んで?どうすんだよ」
「…名前で呼びません」
「…は?」
「ずーっと、ヒル魔さんはヒル魔さんって呼びます!」
「…チッ」


仕方なく離れる。後ろからほっ、とかいうため息が聞こえてきやがった。「朝から、ありがとうございました、」


「…妖一‥さん」
「!」
「「よっ…妖一さん?!?!」」
「ケケケ!うっせぇ糞チビ共!さっさと朝練始めっぞ!!」
「「はっ、はいぃっ!!」」


ダラララララといつもの様に銃を鳴らしながら言うと、糞チビ共は慌てたようにロッカールームへと入って行った。糞チビマネは…ドリンクを作り始めようとしてやがる。まだ自分が病み上がりだってことわかってんのか?…多分わかってねぇんだろうがな。それも、俺の気持ち考えも全部。


「…おい」
「はい?―…えっ‥」
「―…ぜってー名前で呼ばしてやるからな…覚悟しとけよ?、」


耳元でそういうと、思ったとおりの顔はまた真っ赤に染められた。









(久しぶりの、愛しいかれ)













(081116)